それを見た瞬間、私の心はすべて奪われてしまった。なんという輝き、なんという緻密さ。それでいて柔らかな曲線はどんな計算からも生まれてくるようなものではなく、一方で凛として力強い。こんなにも美しいものは生まれて初めてだ。そのとき、いつかこれを自分のものにしよう。そう心に決めた。
それからというもの、それが頭から離れたことなど一度もなかった。それを手に入れるためにならどんなことでも耐え忍んだ。雨の日も風の日も、暑さも寒さも。肌がじりじりと焼け、絶えず流れ落ちる汗をタオルで拭いては休むことなく、寒さにかじかむ手に息を吹きかけて暖めてはクタクタになるまで働いた。すべてはそれを手に入れるためだった。
えっ、途中で投げ出したいと思ったことはなかったかって?そりゃ、あまりの苦労に、はるか遠くに行ってしまったように思ったことはあったよ。でもあきらめはしなかった。もし途中でやめたらいままで何のための生きているのかがわからなくなるような気持ちがしたからさ。自分自身を否定するような気がしたんだ。歯を食いしばって頑張ったよ。
で、とうとうその日が来た。人生をかけてきたそれが手に入る日が。これまで何度も見てきたけれど、今日はいちだんと輝いて見える。そのとき、私の目の前で小さな赤ちゃんを置き去りにして若い女性が走り去った。寒空に泣き叫ぶ赤ちゃん。その赤ちゃんを抱き上げた瞬間、私は脳天から雷に打たれた。一瞬で私の宝は輝きを失い、どうでもよくなった。自分の宝を手に入れることより捨てること、与えることが人生だって気がついた。そう、今日はクリスマス。すべてを捨てて人となってくださったイエス様がお生まれになった日。それをすっかり忘れてた私は遠回りをしたものだ。今からでも遅くない。その足跡に従って愛のために生きよう!それこそ宝!