「えっ、この人89歳?」若々しい顔つやにとてもそんな歳とは思えない。テレビを見て驚いたのは安積登利夫さん。現役テーラー(紳士服仕立屋)として働いておられる。しかも、後進の育成のために6年前に「東京洋服アカデミー」を開いて教えておられる。
戦争で両親を亡くし、満州から引き揚げ、13歳で丁稚に入ったという。27歳で独立したのだが、テーラーにとっての閑散期は夏。誰も上着を脱ぎ捨てる時期だ。そこで考えついたのが「無料お直し」。自転車でご用聞きをしては信用を獲得して商売が軌道に乗ったという。近所に住んでいた巨人軍の広岡選手に「気に入らなかったらタダにします」と売り込んで、気に入っていただいた。「身体に合わせた服を作ることは、ある程度の技能があれば何とかなる。しかし、好みがわからないなら、注文服でもお客様は満足しない。身体に合わせるのではなく、お客様の好みに合わせるのが真の注文服なのだ。」球団一の「おしゃれ番長」の広岡さんの信用で王貞治さんの結婚式のスーツも作った。
そんな輝かしい経歴を持ちながら、息子と仕事をし、若い人たちに教える。タレントの高田純次さんが『歳とってやっちゃいけないことは「説教」と「昔話」と「自慢話」』と言っておられましたが、きっとそうしておられるのでしょう。洋服づくりは「相手の好みに合わせること」。それをすべてのことに心がけておられるのかもしれません。
「私たち力のある者たちは、力のない人たちの弱さを担うべきであり、自分を喜ばせるべきではありません。私たちは一人ひとり、霊的な成長のため、益となることを図って隣人を喜ばせるべきです。」(ローマ15:1-2)周りの人を喜ばせること。それこそが喜びをもってイキイキと生きる秘訣ではないでしょうか。それは若い人も歳をとっても変わりません。まさに生涯現役。自分に与えられた命の日をそのように生きたいものです。