人が権力を手にしたとき、初めの思いからかけ離れた傲慢な人間に変わってしまうことは少なくありません。まるで国を世界を自分で動かしているような思いにとらわれてしまうのです。そして、誤りや過ちを詫びるという謙遜な態度をなくし、保身と言い訳に終始する姿は見ていてもやるせない思いしか残りません。そして、いつも思うのです。この人はどこから逸れてしまったのだろうかと。
その昔、吉本興業の社長さんだったと思います。「億タレの秘訣」というのを書いていました。億タレとは億を稼ぐタレントです。桂三枝さんが売れ始めた頃、先輩芸人さんに呼ばれてこう教えられたというのです。「売れ始めたら気をつけなさい。まるで自分に才能があるかのように感じることがある。そうすると周りがバカに見えてくる。」その時が肝心だと言うのです。周りの人たちの扱いが雑になったり、態度が尊大になったりする人がいる。そしたらすぐに終わる。
「私たちの商売は、必要としてくれるお客さんあってなんぼの商売。笑ってくださるお客さんあってこその商売。そのことをよくよく心に留めておきなさい。」浮き沈みの激しい業界です。だからこそなのですが、それはどの世界にも共通することです。自分の力で何かをしているわけではなく、立たせていただいているからこそ立っている。それが私たちの立ち位置です。
残念ながら、謙遜にわきまえて仕事をすることは簡単ではありません。私たちの心に住み着く罪の魔物がいるからです。とりわけ、権力や力というものは私たちの目を眩まします。人を変えてしまいます。あの人だからということも、それ以上にそのポジションがそうさせてしまうことが少なくありません。自らを戒め、また立てられている人のためにとりなし祈る者となろうではありませんか。